2011年の東北の震災、大津波から4年が経ちました。
水をテーマに制作活動してきた私にとって、
今まで携わってきた水とは違う別の一面と向き合うことになりました。
地上の生命を育む一方で、全てを奪う存在にもなり得る水。
古来より人は、その力に畏敬の念を抱きながら水と共に暮らしてきました。
水は、穢れや煩悩を清め、浄化・再生などの役目を担い、
日本人の生活の中に風習・習慣としてとけ込んでいます。
本展はそれらを元に浄化・再生をテーマとし、
水と人の営みの関わりについて改めて問い直す試みとなりました。
胡桃澤 千晶
かげろうは、儚いものの云いである。水面をかすめる光や泡は、今、ここに確かに存在しているのに、あっという間に過去になる。記憶とは存在していたはずの過去だが、今、ここにはない。
壁の一面には貯水池の水面をアップにした映像と、窓辺や風景、人の顔などを、水を通して撮影したゆらゆら揺れる映像の2点が大写しになっている。床上の細長い箱に満たされた水の面に映像が映りこみ、時折そこに天井から水滴が落ちて驚かされる。水を通して撮影したためぶれた風景写真は、大きなものは額装され、小さなものは直接壁面に貼られている。展示テーマのひとつとして、水による浄化、再生、巡礼があり、貼られた写真は、鑑賞者が会場内を巡礼の道標のようにして廻る、一種のアイテムでもある。
人によって眼球の形状が微妙に違い、見えるものは微妙に異なることから、視覚は目の前にあるものの歪んだ情報なのだと、胡桃澤は言う。水を媒介にぼやけた映像や写真は、現実の記録として使用される元々の役割を逆転させ、問いかける。あなたが普段目にしている事象は、果たして「事実」なのかと。「私の事実」と「あなたの事実」は、異なって見えた像でしかない。
私たちが共有できる記憶は、微妙にずれている。行く川の流れは絶えずして、私たちは水のように流れゆく。会場に周到に用意された水の揺らめきは、私たちの認識の儚さと、私たちが決して同じ水として混じり合えないこととを、悲哀を込めて伝えるようだ。
天プラ・セレクション推薦委員
倉敷市立美術館学芸員
佐々木 千恵
岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.61 胡桃澤千晶展 かげろうエレジー
[会期]2014年5月14日(水)〜18日(日)
[会場]岡山県天神山文化プラザ 第4展示室
胡桃澤 千晶
1967 東京都生まれ
1994 多摩美術大学 絵画科陶芸専攻卒業
現在 倉敷市在住
展覧会
2003 21世紀連立美術展(東京都美術館)
2004 Intersection-Passport 現代美術展(ウランバートル・モンゴル)
2005 INTERart (ミエルクレア=チュク・ルーマニア) [2002、2003]
2006 2人展「刻まれる色浮遊する時」(未来画廊/東京)
2006 Quiet sound (Fermynwoods Contemporary Art/イギリス)
2007 Intersection-3 EXPORT-IMPORT(ナライハ・モンゴル)
2008 2人展「Cloud Ensemble」(シェフィールド・イギリス)
2008 2人展「Ripple Effect」(コルチェスター・イギリス)
2008 Exposicion La Conquista(メキシコ)
2009 旧酒蔵再生プロジェクト ―国際美術展 in 淀江(ギャラリア大正蔵/米子)
2009 ISLAND UNIVERSE (GALLERY IN THE BLUE/宇都宮)
2010 青島国際美術祭(青島美術館/中国)
2011 レゾナンス「サイエンスとアートとの対話」(総合研究大学院大学/神奈川)
2012 Viva la vida y la muerte(パツクアロ・メキシコ)
2013 1st International Disability Human Rights Exhibition (Gallery LA MER/ソウル・韓国)
2014 天プラ・セレクションVol.61「胡桃澤千晶展 かげろうエレジー」(岡山県天神山文化プラザ)
2014 個展「美しきものはみな眠る」(倉敷市立美術館/岡山)
2014「定住と漂流」(アルフレド・サルセ現代美術館/メキシコ)
その他個展・グループ展多数
胡桃澤 千晶 WEBサイト
出品一覧
タイトル|素材/技法/形状|サイズ(cm)|制作年 かげろうエレジー|インスタレーション 映像:プロジェクター投影、液晶モニター 写真:紙にインクジェットプリント その他:木製パネル、水、ボトル缶|サイズ可変 |2014
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本記事は、平成26年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.61 胡桃澤千晶展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。
発行:岡山県天神山文化プラザ
発行日:平成27年3月31日
印刷:株式会社 三浦印刷所
編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]
デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]
撮影:加賀雅俊[べあもん]
照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]
<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>
平成26年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集
岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2014年4月15日〜2015年3月29日の期間に開催された7人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。
<目次>
藤原裕策展|ゴルゴダ ―展翅のささやき―|天プラ・セレクションVol.59
加藤晋平 写真展|家族のカタチ2|天プラ・セレクションVol.60
胡桃澤千晶展|かげろうエレジー|天プラ・セレクションVol.61
真部剛一展|虚実皮膜|天プラ・セレクションVol.62
宮崎政史展|天プラ・セレクションVol.63
片山康之展|完成形の可塑性能|天プラ・セレクションVol.64
三宅良史展|日本画×インスタレーション|天プラ・セレクションVol.65
カラー60ページ
税込1,000円
※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)
お問い合せ
〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ
TEL 086-226-5005
FAX 086-226-5008
メール tenplaza@o-bunren.jp
受付時間 9:00~18:00
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。