私は今までに中国の黄土高原に住む方々、ジモトに住むホームレス、障害のある方、瀬戸内海の島に住む高齢の方、在日コリアンの方々と長期的に関わらせていただきました。本展覧会では、その関わりのなかから見出された問題を、ワークインプログレスの作品として発表いたしました。
特殊な状況のなかで社会との問題と向き合いながら生きている人々、私がそれらの人々と関わり見えてきた、「いま、ここに生きている」という現実、そして、社会との関わりで消えていった、「いま、ここにはいない」という虚構、それら相反する虚実を、私は行ったり来たりしながら関わり見届けてきました。
荘子の斉物論篇のなかの一節で、「胡蝶の夢」というのがあります。
「自分が嫌になる夢を見て、楽しく飛びまわる蝶になりきって、自分が自分であることを自覚しなかった。ところが目が覚めると、まぎれもなく自分である。いったい自分が蝶となった夢を見たのか、それとも蝶が自分になった夢を見ているのだろうか…。」
江戸時代、近松門左衛門が唱えた芸術論で、現実と虚構との微妙な境界にこそ芸術の真実があるとする論です。私はそれを「虚実皮膜」として考えています。虚と実をじっくりと見つめたその間にある皮膜、それこそが表現の原点であるように私は思います。
これまで関わらせていただいた人々への敬意と鎮魂の思いを込めて生み出されてきた虚実皮膜の断片は、物質のにおいや光とともに虚と実の空間を漂い、ただ、ただ消えていく、そのように願い表現いたしました。
真部剛一
現実世界には様々な層があり、モノゴトは複合して同時存在している。
天プラ地下展示室が薄暗く3つに仕切られた。
北側のスペースでは、ホームレスの青年の噴出するエネルギーを持て余している姿が、日常の猥雑さ泥臭さと共に美しく映し出される。猥雑なエネルギーに辟易しながら見続けていると、いつの間にか悲しみにとらわれる。
中央のスペースは、発酵臭を漂わせるドブロクの入った器が床に配置され、その奥の正面の壁に般若心経が展示される。真鍋島で出会った、故真鍋さんの残した写経を模写したもの。このスペースは、故真鍋さんへの追悼のためと言う。
南側のスペースには、断続的な噴射力により水がうず巻き続ける大きな水槽が据えられ、水の中には銀色の粉末が浮かび、不定形に次々と変化してゆく。これは、極小(極大)世界における粒子の無秩序な振る舞いを連想させる。以上の展示は、他者・死者・私に要約化され、それぞれが身体を思わせ、全体でまた一つの身体とも思える。
真部は、10代の頃より現代社会における諸問題をテーマにアートプロジェクトを展開してきた。「私が彼らと関わることで見えてきた『いま、ここに生きている』という現実、そして社会に関わることで見えてきた『いま、ここにはいない』という虚構」に気付き、「それら相反する虚実を行ったり来たりしながら彼らを見届けてきた」と語る。
現実世界は一筋縄ではいかない魔物である。
「…『蛻』とは蛇や昆虫が脱皮すること…あるいはヒトや動物がその魂を離脱させることをいう…。内側にあるなにものかが、外皮だけを遺して外側に消える―だが、社会という単位で見た場合、そのなにものかがいた場所は、見かけは内側でも、実は外側だったという可能性もある。たとえば、グループホームでの火災や原子炉事故のように、故意に忘れられ内側に閉じ込められていた『外部』が内部に出てくる出来事がそれだ。」
(引用:野戦之月海筆子 ―蛻てんでんこ―)
真部は社会と向き合い、「故意に忘れられた」モノたちに出会った。そして同時にそれの抱える難問にも出会ってしまった。日々たれ流される○○をただ鵜呑みにし、オクターブ高い△△に浮かれ、口当たりのいいだけの××に心を奪われて、社会の深刻な問題に気付かず見ずに済ませれば、高度消費社会を謳歌して暮らしていける。
そんな能天気な私たちの脳天に、真部はふんわりと楔を打ち込む。
天プラ・セレクション推薦委員
美術家 岡部玄
岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.62 真部剛一展 虚実皮膜
[会期]2014年8月5日(火)〜10日(日)
[会場]岡山県天神山文化プラザ 第2展示室
真部 剛一
1974 岡山市生まれ
1999 京都市立芸術大学 大学院 美術研究科 修了
現在 京都市在住
主な個展・グループ展・プロジェクト
1994 自由工場京都展(西陣織物工場跡地/京都)
2001 奉還町アート商店街(奉還町商店街/岡山)
2002 ニュータウンアートタウン展(山陽団地全域/岡山県山陽町)
2003 黄土高原・楊家溝村にてアートプロジェクトを開始(陝西省・中国)
2004 histream(黄土高原・楊家溝村/陝西省・中国)
2004 TRUE COLORS(シラパコーン大学アートギャラリー/バンコク・タイ)
2005 「煙の変遷 ―histream of smoke―」展(ギャラリーすろおが463/岡山)
2005 昭和40年会presents 七人の小侍+1(ANPONTAN/東京)
2006 「記憶の集積を創造の海へ」展(丸亀市塩飽本島町笠島地区/香川)
2006 アートの今・岡山2006(岡山県天神山文化プラザ・高梁市歴史美術館・勝央美術文学館)
2007 「ホームタウンホームレス」プロジェクトを開始(岡山)
2008 こんぴらアート 2008・虎丸社中(丸亀市琴平虎丸旅館/香川)
2010 朝鮮学校ダイアローグ「ホームタウンホームレス」(旧朝岡山朝鮮初中級学校/岡山)
2010「D調/Di-stances」D調當代影像装置藝術展(關渡美術館/台北・台湾)
2010「ホームタウンホームレス」個展(ギャラリー8×8/岡山)
2011 朝鮮学校ダイアローグ '11-'12(旧朝岡山朝鮮初中級学校/岡山)
2014 天プラ・セレクションVol.62「真部剛一展 虚実皮膜」(岡山県天神山文化プラザ)
出品一覧
タイトル|素材/技法/形状|サイズ(cm)|制作年 虚実皮膜|インスタレーション|サイズ可変|2014
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本記事は、平成26年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.62 真部剛一展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。
発行:岡山県天神山文化プラザ
発行日:平成27年3月31日
印刷:株式会社 三浦印刷所
編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]
デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]
撮影:加賀雅俊[べあもん]
照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]
<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>
平成26年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集
岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2014年4月15日〜2015年3月29日の期間に開催された7人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。
<目次>
藤原裕策展|ゴルゴダ ―展翅のささやき―|天プラ・セレクションVol.59
加藤晋平 写真展|家族のカタチ2|天プラ・セレクションVol.60
胡桃澤千晶展|かげろうエレジー|天プラ・セレクションVol.61
真部剛一展|虚実皮膜|天プラ・セレクションVol.62
宮崎政史展|天プラ・セレクションVol.63
片山康之展|完成形の可塑性能|天プラ・セレクションVol.64
三宅良史展|日本画×インスタレーション|天プラ・セレクションVol.65
カラー60ページ
税込1,000円
※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)
お問い合せ
〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ
TEL 086-226-5005
FAX 086-226-5008
メール tenplaza@o-bunren.jp
受付時間 9:00~18:00
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。