「労の集積」
私は具体的なモノとして美術的に可視化された「かたち」をみせる作家だ。
空間の演出家ではないし、意味やストーリーをみせるタイプでもない。
その前提において本展は、展示構成と空間の作り込みが本来すべき事の隠れ蓑になっているように思えた。
この感触を一つの問いに変換し、私がすべき事を整理した内容が以下である。
私は、美術するうえにおいて、技術力/写実力を土台とした「労の集積」をみせなければならない。
それは、私の作品は何なのかという自問でもある。
現存するほとんどの作家がContemporary Artという方舟には乗りきれていない現状の中で、
少なくとも私はその一人であり、つまりは自分に向けてしか作品をつくれない現状が示す先には、寡黙な労働の積み重ねしかないのだ。
片山 康之
『姿ハ似セガタク、意 (ココロ)ハ似セ易シ」(本居宣長)
薄暗い第3展示室の奥、瞳を閉じた白い顔に黒い衣服の像が、能に登場するワキのように静かに立つ。向き合うシテのように第4展示室には赤い女性像。頭に得体の知れないモノを載せ、背中の皮膚が増殖して獣の顔になって突き出ている。2体の間の空間は広く、思い切りの良い余白となっている。
ここは身体内奥の暗闇か、幽界か。
横たわる人物像は、尻や背中に生えた根に押し上げられ、夢の中を浮遊しているかに見える。この作品について「浮いた状態にしたくて…」と片山は語る。制作法に習熟してしまうと、難無くできてしまう。そのことに対する危惧から、自己否定を込め、自らの手の加わらない自然物を導入したのだろうか。この作品は自然の反乱を想起させる。「美術史(近代文明=脳)によって置きざりに(抑圧)されたとも言うべき人や物(身体=自然)を写実する(検証する)」ことを通して、自然の奥深くへの旅を続けているのだろうか。
空間配置、構想、着眼点と、存在を丸ごととらえようとする姿勢を感じさせ、興味深い良い展覧会だった。初めて会ったのだが、片山の顔つきが良いと思った。
ただ、僭越なのだが…不満が少しある。赤い人物像などは意欲的で可能性を感じさせるものなのだが、出来の良いマネキンに見えてしまったのだ。リアリテは、もう少し違った姿をしているのでは…と。しかし、この不満は、私の眼力の無さが起因しているのかも知れないし、私自身が答えを見い出すべきことなのかも知れない。
会場での会話の中「今決定している次回の個展の後は、6年程時間をかけてから発表したい」との、片山の発言に、深く期するものを感じた。難問と、どう向き合い、どう乗り越えていくのかを注目していたい。
天プラ・セレクション推薦委員
美術家 岡部 玄
岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.64 片山康之展 完成形の可塑性能
[会期]2014年12月3日(水)〜7日(日)
[会場]岡山県天神山文化プラザ 第3・4展示室
片山 康之
1978 岡山県生まれ
2003 倉敷芸術科学大学大学院芸術研究科美術専攻修了
現在 倉敷市児島在住
個展
2011 Plant Worm(Gallery Suchi/東京)
2012 Redirect(Gallery Suchi/東京)
2013 works 2010-2013(アートガーデン/岡山)
2014 天プラ・セレクションVol.64「片山康之展 完成形の可塑性能」(岡山県天神山文化プラザ)
グループ展等
2010 共鳴する美術 2010―ストーリー・テリング―(倉敷市立美術館/岡山)
2010 アートの今 2010・岡山 ―具象表現の現在―(岡山県天神山文化プラザ・高梁市歴史美術館・奈勝町現代美術館)
2011 AHAF香港 2011 (香港)、アート台北 2011(WTC台北/台湾)
2012 AHAF香港 2012(香港)、アートフェア東京2012
2012 「重力」(Gallery Suchi/東京)
2012 アート台北 2012(WTC台北/台湾)
2012 PLUS+ULTRA 2012(青山スパイラル/東京)
2013 第10回犬島時間(犬島/岡山)、「重力2」(Gallery Suchi/東京)
受賞
2008 岡山県美術展山陽新聞社大賞(岡山県立美術館)
2009 岡山芸術文化賞準グランプリ
2009 マルセン芸術文化賞
出品一覧
タイトル|素材/技法/形状|サイズ(cm)|制作年 無題|土、水性塗料|30×20×5|2014
無題|ワトソン紙、パステル、鉛筆|142.5x104.6|2014
無題|FRP、人口毛、蓮の実、木、土|60×60×240|2014
Redirect 2013|FRP、蓮の実、木、新聞紙、土|70×80x190|2013
無題(背景)|ワトソン紙、パステル|450×450|2013
脳|土、水性塗料|20x25|2011
心臓|土、水性塗料|15×10×7|2011
血管|木|50x50x50|2013
神経|土、銀|20×20×5|2012
魂|土、水性塗料|30×20×10|2013
The Night|土、樟|70×80×150|2009
夜ヲ創ル鳥|ワトソン紙、パステル、墨|350×650|2009
plant worm―/Violin|バイオリン、漆|55×25×20|2010
plant worm/Campbells Soup|キャンベルズスープ缶、漆|10x15x15|2010
Piano|ワトソン紙/インクジェットプリント|15×15|2010
Drawing|ワトソン紙|45×45|2010
Redirect|土、水性塗料、木/3点連作|50 × 50 x 70|2011-2012
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本記事は、平成26年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.64 片山康之展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。
発行:岡山県天神山文化プラザ
発行日:平成27年3月31日
印刷:株式会社 三浦印刷所
編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]
デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]
撮影:加賀雅俊[べあもん]
照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]
<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>
平成26年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集
岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2014年4月15日〜2015年3月29日の期間に開催された7人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。
<目次>
藤原裕策展|ゴルゴダ ―展翅のささやき―|天プラ・セレクションVol.59
加藤晋平 写真展|家族のカタチ2|天プラ・セレクションVol.60
胡桃澤千晶展|かげろうエレジー|天プラ・セレクションVol.61
真部剛一展|虚実皮膜|天プラ・セレクションVol.62
宮崎政史展|天プラ・セレクションVol.63
片山康之展|完成形の可塑性能|天プラ・セレクションVol.64
三宅良史展|日本画×インスタレーション|天プラ・セレクションVol.65
カラー60ページ
税込1,000円
※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)
お問い合せ
〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ
TEL 086-226-5005
FAX 086-226-5008
メール tenplaza@o-bunren.jp
受付時間 9:00~18:00
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。