普段目にしているはずのモノや風景も、ふとした瞬間琴線に触れることがあります。
何がいつもと違うのだろうという疑問が興味へとつながります。―「何か気になる。」
私の場合、創作のインスピレーションが沸くのはこんな時です。
そして作品づくりに取り組む際には、次のことを考えるようにしています。
「目の前のモノや風景のどんな部分に心が震えたのか?」
「自分は今どんな心境か?」
「目の前のモノや風景と、自分の心。二つはどのように共鳴したのか?」
これらについて思いを巡らせ、自分なりの答えを模索します。
必要なエッセンスを取捨選択し、時に強調したり、時に付け加えたり…
この模索する過程が私にとっての作品づくり。
そして辿り着いた答えを描きとめたのが私の作品。
そう思うと私が描く作品は、ほんの備忘録のようなもの。
そこで本展のサブタイトルを“ささやかな備忘録”とすることにしました。
日常の中で邂逅する、心震わせるモノや風景。
日々起こる出来事と、そこから生まれる自分の心の変化。
自分とその周りにあるものを見つめ、それらが共鳴するひとときの交わりを記録する備忘録。
私は自身の人生を一歩一歩進んでいるのだと実感しその感触を確かめるため、
そんなささやかな備忘録を描きとめていこうと思います。
安中 仁美
Exhibition Review
普通、枯野に人が靴を放って横たわっていたらこれは事件だ。
そして膝下であらわされた男か女かは知らないが、その人物がそれを見届けていたに違いない。
絵画はフィクションで実景と比較するのは野暮だとして、何やら不穏な空気をまとう絵を前に去りがたい気持ちになったのを記憶している。2015年I氏賞選考展での事である。あれから2年の月日を経て、安中作品はどのような展開を見せているのか、前述の《秋の調べ〜オカリナ〜》以外の作品もまとめて見られる機会を心待ちにしていた。
このたび新作も含む25点の作品が一堂に並ぶ会場でまずは、「一筋縄ではいかない態は健在だな」という印象を持った。クローバー畑でまどろむ毛並みの良い犬や、花咲く茂みに横たわる女性。単に主題を追うと絵を見誤る危険を孕む、その場はなんともスリリングな構成となっていた。湿潤な大地に渇きを、無邪気なまなざしに飽くなき執着を看取するのは深読みが過ぎるだろうか。いや、そうした相反する様を安中は「何か気になる」現実の一コマとして画面に共棲させているのである。時に近作《風の標》に見る、不穏な空気を一掃するかのような爽やかな情景も織り交ぜて。
ところで副題、一体どこが「ささやか」なのか、その色・形・筆勢どれをとってもこの言葉を連想するにはほど遠い。「備忘録」もまたメモ・覚えであって事の主役ではないだろう。それらを最前に出すところに彼女の想念の逞しさとズレを感じ、ますます興味を掻き立てられるのである。
天プラ・セレクション推薦委員/高梁市成羽美術館 副館長 渡辺 浩美
岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.76 安中仁美展 ささやかな備忘録
[会期]2017年3月28日〜4月2日 [入場無料]
[時間]9時30分〜18時(最終日は16時まで)
[会場]岡山県天神山文化プラザ・第3展示室
安中 仁美 Hitomi Annaka
1988 群馬県生まれ
2011 筑波大学 芸術専門学群 美術専攻洋画コース 卒業
2013 筑波大学大学院 人間総合科学研究科 博士前期課程芸術専攻 修了
岡山県に移住 約2年間住む
現在 広島県在住
個展
2013 VOYAGE(あかね画廊/東京)
2016 風景からの問いかけ 安中仁美 油彩画展(天満屋広島八丁堀7階アートギャラリー/広島)
2017 天プラ・セレクション vol.76「安中仁美展 ささやかな備忘録」(岡山県天神山文化プラザ)
主なグループ展
2012 Nouveau Vanitas展 〜11作家によるヴァニタスの再解釈〜(ギャラリーボヤージュ/東京)
2014 二紀会三人展 安中仁美 小牟禮雄一 渡辺善(あかね画廊/東京)
2016 EXHIBITION by ZERO!(あかね画廊/東京、ギャラリー唐橋/滋賀県)
賞歴
2011 筑波大学芸術専門学群卒業制作展 筑波大学芸術賞
2011 第2回 青木繁記念大賞西日本美術展 優秀賞
2011 二紀展 入選 [以降 ’12、’13春季、’14、’15]
2012 第47回 昭和会展 出品
2012 第27回 全国絵画公募展IZUBI 賞候補
2015 第8回 岡山県新進美術家育成 I氏賞選考作品展 奨励賞
2016 第70回記念 二紀展 奨励賞
出品一覧
タイトル|素材/技法|サイズ(cm)|制作年 Break through|キャンバス/アクリル・油彩|116.7 ×116.7|2016
スペインの丘 I|キャンバス/アクリル・油彩|15.8×22.7|2016
スペインの丘 Ⅲ|キャンバス/アクリル・油彩|22.7 ×15.8|2016
夕空 I|キャンバス/アクリル・油彩|18×14|2016
雪景色 I|キャンバス/アクリル・油彩|14×18|2016
夕焼けの風景|キャンバス/アクリル・油彩|14×18|2016
雪景色 II|キャンバス/アクリル・油彩|18×18|2016
夕空 II|キャンバス/アクリル・油彩|14×18|2016
カリンの樹|キャンバス/アクリル・油彩|18×18|2016
波止場の風景|キャンバス/アクリル・油彩|18×18|2016
風の標|キャンバス/アクリル・油彩|162×162|2016
冬空|キャンバス/アクリル・油彩|45.5×53|2016
黄昏|キャンバス/アクリル・油彩|65.2×65.2|2016
郷愁の旅|キャンバス/アクリル・油彩|91×116.7|2016
海と靴|パネル・綿布・石膏地/油彩|162×162|2015
風の向こう側|パネル・綿布・下地にアクリル/油彩|130×162|2015
ナズナと林檎の庭で|キャンバス/アクリル・油彩|72.7×91|2015
息吹|キャンバス/アクリル・油彩|162×260.6|2017
緑の丘|キャンバス/アクリル・油彩|91×72.7|2016
みなぎり 〜大地〜|キャンバス/アクリル・油彩|162×162|2016
轍|キャンバス/アクリル・油彩|162×130.3|2016
秋の調べ 〜オカリナ〜|パネル・綿布・石膏地/油彩|130×162|2013
秋の調べ 〜楽譜〜|パネル・綿布・石膏地/油彩|130×162|2014
丘の景色|キャンバス/アクリル・油彩|72.7×91|2016
野を歩く〜赤い石の首飾り〜|キャンバス/アクリル・油彩|45.5×65.2|2016
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本記事は、平成28年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.76 安中仁美展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。
発行:岡山県天神山文化プラザ
発行日:平成29年5月31日
印刷:株式会社 三浦印刷所
編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]
デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]
撮影:加賀雅俊[べあもん]
照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]
<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>
平成28年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集
岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2016年4月12日〜2017年4月2日の期間に開催された5人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。
<目次>
眞嶋 青 展|museum|天プラ・セレクションVol.72
藤井 龍 展|For( Your/His/Her/My)Eyes Only|天プラ・セレクションVol.73
妹尾 佑介 展|VIVID!|天プラ・セレクションVol.74
有松啓介ガラス作品展|ガラスでしりとり遊び|天プラ・セレクションVol.75
安中 仁美 展|ささやかな備忘録|天プラ・セレクションVol.76
カラー44ページ
税込1,000円
※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)
お問い合せ
〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ
TEL 086-226-5005
FAX 086-226-5008
メール tenplaza@o-bunren.jp
受付時間 9:00~18:00
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。