我々は光を目で捉え、脳で色として認識し、その色の違いによって形を感じている。その当たり前の不思議さに、今回私は「在るものと見えるものと」と題した三つの空間作品でアプローチした。
1つ目は、色彩の不思議である。大きくシンプルな形が確かに存在しているのだが、蛍光色に光を存分に与えることで、形は寂滅し、空間や立体の認識がぶれる。そのような明確に空間認識ができない状況下を人はまた心地よく感じる。色彩によって、気持ちが上がったり、美しく感じたりすることとはいったい何なのか、観る者それぞれの中で色と形が感情のヒダを揺らす装置として作品化した。
2つ目は奥行の感覚が定められない立体作品である。空間に無数の糸による線が重なることで立体を浮かび上がらせたのだが、そのどこにも焦点を合わせることはできない。人は見えるものに焦点を当て、それが何であるかを瞬時に確かめようとする。この作品は、近づいたり離れたりしてその得体を目で捉えようにも、捉えられない立体である。それでありながら、目の前に確かに色として現れを感じ、美しいと心が思ってもらえたならば、私の作品はそこに存在したのである。
3つ目は、今日の我々の視覚の使い方が、これまでのヒトや、他の動物とは違っていることに気付くことのできる作品である。我々は表面を見ている。スマホ、パソコン、テレビなどなど。この特異性を際立たせるために、見慣れたニュース映像を空間に重層的に分割表示した。そして、我々が見続けている「平面」の中に入って、見ている物と同一空間にいるという当たり前を当たり前でなく感じるものとした。我々は何を見つめ、何を想像し、何を生み出していこうとする存在なのであろうか。
福井 一尊
Exhibition Review
福井一尊はとても器用な作家で、絵画、彫刻、映像、写真等さまざまなメディアを巧みに使いこなし、見るたびごとにそのイメージを刷新させる。どこか捉えどころがない。私が知るかぎり岡山県新進美術家育成I氏賞に推薦を受けた際には、着彩したアルミ板を細かくドリルで削り取った平面作品を展覧。その後、小学生を対象におこなったワークショップでは石膏を用いて掌の内側、掬った水の形を象り、「目の目 手の目 心の目」展ではブロンズ、蝋、鏡、金属による複数のインスタレーションで子供たちを大いに楽しませてくれた。京都駅周辺には楽しげなブロンズ像も設置されている。
このたびの天プラ・セレクションでは、レイヤー状に配置した薄布にビデオ映像を投影、映像は遠ざかるほど薄く曖昧にぼやける。どんな大事件であっても我々の記憶や関心は時間や場所が離れるほど薄らいでしまう。またポップな蛍光カラーで彩色した丸い試験管の底が密集したオブジェはまるで虫の複眼のようで、目が回って一つの像を結ぶことができない。そして展示室いっぱいに無数の細い色糸を張り巡らし、物象を立ち現す作品では、細い糸の集積は繊細で、そこに何かを見いだすには注意深く集中しなければならない。タイトルのとおり、そこに確かに在るものに対して、いかに我々鑑賞者が見ているもの、見えるものが曖昧で不確かか、人間とは実にいい加減なものであることを喚起する。福井は見えるもの、見えないもの、微妙なズレに敏感な作家なのだろう。素材の扱いにはまだ工夫の余地はあろうが、作者の今の関心事が素直に表現された展覧であった。
天プラ・セレクション推薦委員/岡山県立美術館主任学芸員 福冨 幸
岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.86 福井一尊展 在るものと 見えるものと
[会期]2018年9月26日〜30日 [入場無料]
[時間]10時〜18時(最終日は16時まで)
[会場]岡山県天神山文化プラザ・第3・4展示室
福井 一尊 Isson Fukui
1976 岡山県 生まれ
現在 島根県在住
島根県立大学人間文化学部 准教授
個展
2004 ブロンズが奏でるかたち(勝央美術文学館/岡山)
2007 光との共鳴、形との対話(奈義町現代美術館/岡山)
2012 SANINBIYORI(島根県立美術館 他、全4会場巡回)
2018 天プラ・セレクションvol.86 福井一尊 展「在るものと 見えるものと」(岡山県天神山文化プラザ)
グループ展
2005 現代アートビエンナーレ西日本(大原美術館/岡山)
2005 犬島時間(瀬戸内海犬島、岡山) ['05、'09、'13]
2006 アートの今・岡山2006(岡山県天神山文化プラザ 他、県内2会場巡回)
2010 小泉八雲に捧げる造形作品展(松江城天守閣/島根)
2014 第7回 岡山県新進美術家育成「I氏賞選考作品展」(岡山県天神山文化プラザ)
2015 岡山の美術「目の目、手の目、心の目 〜体感の向こうに広がる世界〜」(岡山県立美術館)
主な賞歴
2016 エネルギア美術賞(エネルギア文化・スポーツ財団)
出品一覧
タイトル|素材/技法|サイズ(cm)|制作年 twinkle|ミクストメディア|45×90×90|2018
love|ミクストメディア|220×50×50|2018
freedom|ミクストメディア|55×200x12|2018
hope|ミクストメディア|90x90x12|2018
passion|ミクストメディア|50×31×30|2018
life|ミクストメディア|170x190×190|2018
在るものと 見えるものと|色付き糸/インスタレーション|サイズ可変|2018
僕たちはここにいたII|映像/インスタレーション|サイズ可変|2018
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本記事は、平成30年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.86 福井一尊展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。
発行:岡山県天神山文化プラザ
発行日:平成30年12月20日
印刷:株式会社 三浦印刷所
編集:福田淳子[岡山県天神山文化プラザ]
デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]
撮影:加賀雅俊[べあもん]
照明:池田正則[岡山県天神山文化プラザ]
<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>
平成30年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集
岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2018年4月24日〜2019年2月3日の期間に開催された6人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、1年間の記録集として発行したものです。
<目次>
秋山 基夫 展|詩からの自由/詩への自由|天プラ・セレクションVol.83
長原 啓 展|luxury2.0|天プラ・セレクションVol.84
山下 真未 展|動・遊・楽アニメ? 〜Do You Like Anime?〜|天プラ・セレクションVol.85
福井 一尊 展|在るものと 見えるものと|天プラ・セレクションVol.86
久山 淑夫 展|事実が有って存在させない真実・被爆汚染列島|天プラ・セレクションVol.87
加藤 萌 漆芸展|黒に潜む|天プラ・セレクションVol.88
カラー56ページ
税込1,000円
※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)
お問い合せ
〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ
TEL 086-226-5005
FAX 086-226-5008
メール tenplaza@o-bunren.jp
受付時間 9:00~18:00
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。