「意識」「肉体」私とは何か。
不毛とも思えるそんな疑問が消えずに制作のテーマとなっています。
肉体の活動の結果に意識があるはずなのに、
なぜ私は意識ばかりを自分だと思い込んでしまうのか…
肉体を紛れもなく自分自身だと認識できた時、
その活動の一つ一つを自覚できた時に私は一体どういう変化を見せるのか…
制作の中でそのような事を考えながら、
感覚や記憶、思考の断片が脳内で処理される様子と、
身体を使ってそれらが形を成していく様子を自覚しようと試みました。
それは浮遊する点と点が反応してまた新たな点が生まれるようで、
その様子から作品を「浮島」と名付けました。
御札、肉、皮膚、電極、花、錆、文字、土、魚...無数のイメージが混じり合っています。
様々な素材や技法を使用し、
テキスタイル素材の持つ多彩な表現の可能性を再認識する作品となりました。
今後も新たな挑戦をしつつ、独自の表現へ発展させていきたいと思います。
山口 深里
Exhibition Review
静寂の中、妙々たる場景を観た
中央に在る「道」
薄く脆い断片、時の欠けらが行き交う
対峙するもの、方形の寝床、赤と白の浮遊物
そこに在った主体は、漂う意識を残す
対峙するもの、聖域と痕跡
何者でもない者が、現象をこしらえ、娯しむところ
山口深里展「浮島」の魅力は、まず山口の特有な世界観にあるといえる。「“私”とは過去も現在も、ただひたすらに何者でもなく私であり、今後も何者にもなり得ない」と考える山口が追い求める表現は、「つくりたいからつくる」という極めてシンプルな、けれども確固たる感情が原動力となっている。日々の生活の中で自我を意識し、「私とは何か」という自問自答を繰り返しながら、自らが感じることを生きることと位置づけ、素材・技法・色彩と向き合う。
テキスタイルの分野においては糸や布といった繊維素材のみならず、紙、木、竹、金属線、樹脂など、様々な異素材を取り込みながら多彩な表現が試みられており、作品に複数の素材を混用することも珍しいことではないが、ともすると安易で表面的な表現に陥りやすい。
その点、山口の「浮島」は、テキスタイル素材を軸とした多種多様な素材、表現するための技法、そして自らの根源に問いかけることによって引き出された主題、これらと真摯に向き合うことにより、作品に組み込まれた要素が見事なまでに一体となり、観る者を魅了した。「私とは何か」「何のために生きるのか」、山口の意識を具現化した「浮島」は、生きることの意味を静かに問いかけてくるように思えた。
天プラ・セレクション推薦委員/岡山県立大学 准教授 島田 清徳
岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.94 山口深里展 浮島
[会期]2021年2月23日〜28日 [入場無料]
[時間]9時30分〜17時(最終日は16時まで)
[会場]岡山県天神山文化プラザ・第4展示室
山口 深里 Misato Yamaguchi
1981 福岡県生まれ
2004 岡山県立大学 デザイン学部 工芸工業デザイン学科 卒業
2006 岡山県立大学大学院 デザイン学研究科 工芸工業デザイン学専攻 テキスタイルデザイン学講座 修了
主な活動
2017 舞台美術 演劇 夏休みこどもまつり(西川アイプラザ/岡山)
2018 舞台美術 演劇 野良の遊び箱 in 夏休み(西川アイプラザ/岡山)
2019 第4回総社芸術祭 屋外ステージ インスタレーション(総社市総合文化センター カミガツジプラザ/岡山)
展覧会
2004 HOPES 2004 第6回 広島県・岡山県大学美術系卒業制作選抜展(ふくやま美術館/広島)
2005 個展「silent MIRROR」 (white canvas/岡山)
2006 HOPES 2006 第8回 広島県・岡山県大学美術系卒業制作選抜展(ふくやま美術館/広島)
2007 CIFACA CIFAKA EXHIBITION グループ展(cifa-cafe/岡山)
2009 個展「Xからの質問状」(cifa-cafe /岡山)
2021 天プラ・セレクションvol.94 山口深里 展「浮島」(岡山県天神山文化プラザ)
「浮島」構成一覧
作品|技法|素材 布団、掛け布団、枕|ミシンワーク ニードルワーク|綿布、ナイロン布、綿糸、銅線、ガラスビーズ、粘土、柿渋、墨、朱墨、アクリルガッシュ、ポリエステル綿
赤い丸|ペインティング|紙、朱墨、アクリルガッシュ、アルミニウム箔、ニス、エナメル塗料、ステンレス、真鍮線、綿糸、ナイロン糸
白い線|コイリング|鉄線、綿糸、ナイロン糸
道|ニードルワーク ペインティング|楮、寒冷紗、半紙、フェルト、竹ひご、鉄線、綿布、水彩絵の具、墨、柿渋、ニス、ペンキ、シリコン樹脂、紙、MDF
街灯|ニードルワーク コイリング|ナイロン布、ガラスビーズ、テグス、ステンレス、鉄線、綿糸、竹
着物|ミシンワーク ニードルワーク|ナイロン布、綿布、綿糸、銅線
座布団|ミシンワーク ニードルワーク|綿布、綿糸、ミシン糸、ガラスビーズ、ステンレスメッシュ、ジェッソ、シリコン樹脂、ウレタンフォーム
脇息|ニードルワーク|綿布、綿糸、ミシン糸、ガラスビーズ、ジェッソ、シリコン樹脂、真鍮線、MDF、木、発泡スチロール、アクリルガッシュ
砂場|ドローイング ミシンワーク|綿布、ナイロン布、鉄線、アクリルビーズ、竹ひご、墨、顔料インク、ステンレスメッシュ、発泡スチロール、アクリルガッシュ
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本記事は、2020年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.94 山口深里展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。
発行:岡山県天神山文化プラザ
発行日:2021年3月31日
印刷:株式会社 三浦印刷所
編集:加藤淳子[岡山県天神山文化プラザ]
デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]
撮影:加賀雅俊[べあもん]
<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>
令和元年度・令和2年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集
岡山県天神山プラザ企画展「天プラ・セレクション」として2019年5月28日〜2021年2月28日の期間に開催された6人の各展覧会の個別の小冊子を合本し、2年間の記録集として発行したものです。
<目次>
二乃本 曙暢 展|Vibration ―鼓動―|天プラ・セレクションVol.89
岡本 汐加 展|―Process: play with the site―|天プラ・セレクションVol.90
原田 よもぎ 展|青い国の話|天プラ・セレクションVol.91
諸川 もろみ 展|ポーコ・ポコ・コーラとポテトイッチプ|天プラ・セレクションVol.92
大橋 裕子 展|まだ見ぬものたち|天プラ・セレクションVol.93
山口 深里 展|浮島|天プラ・セレクションVol.94
カラー52ページ
税込1,000円
※各展覧会の個別の小冊子も発行しています(カラー8ページ/税込200円)
お問い合せ
〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ
TEL 086-226-5005
FAX 086-226-5008
メール tenplaza@o-bunren.jp
受付時間 9:00~18:00
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。