昨夏からネコを飼い始めたのは、
仲良くなった近所の飼いネコが突然還くに行ってしまったから。
小さな白いふわふわとはずっと一緒にいられると思っていました。
命ってあっけない。
出会ったのは二年前の春のはじめで、
私はちょうど長患いの末に亡くした命を悲しんでいる時でした。
ふわふわの命が喪失の寂しさを和らげてくれたんです。
命ってつながってる。
四季が環る中で日々考え、
経験してきた事が私の絵のテーマになっています。
私の物語を私の手で紡ぐ。
さて次は何を描こうかな。
寺尾佳子
Exhibition Review
寺尾の魅力は、なんといっても細密な人物描写であろう。注目されるのは、その表現方法。洋画家の多くが支持体にキャンバスを用いる中、木製パネルに炭酸カルシウムと膠を混ぜた白亜地を作り、全面に銀箔を貼り硫黄により化学変化させた画面を作る。そこにテンペラと油絵具の混合技法を用い制作する。寺尾は大学院2年生の時に混合技法に触れ、透明感と発色の美しさの虜になったという。以来混合技法は寺尾の代名詞となっている。
寺尾は総社市在住の洋画家であるが、2018年の西日本豪雨の際、真備にあった彼女のアトリエが全壊し、作品と画材のほとんどを失った。その経験から近年、水や風、時間など、形のないものを作品の中にいかに表現していくかをテーマに制作を続けている。
本展覧会は「寺尾佳子展―WATERMARK」というタイトルになっているがテーマは水と命。新作を含む大作6点が披露された。《境界》は西日本豪雨災害を思い起こさせる作品。この作品群は制作途中に被災したもので、画面に箔の剥がれた部分があるのは、作品に被せていた保護用の紙が貼りつき、それを取った時にできたものだという。まさしく「生と死」の境界を描きたかったという寺尾の創作への執念と強い想いが感じられる。
最新作《WATERMARK》は《オフィーリア》 (ジョン・エヴァレット・ミレー作)のイメージで描いた本展のメイン作品。金色の水面に、青いドレスを着た女性が静かに目を閉じ浮遊する姿は幻想的で、新型コロナウイルスのパンデミックにより人々が忘れかけていた日常の平穏なひとときを取り戻してくれるかのようである。金色に変化させた銀箔に金野毛を効果的に用いるという新しい装飾表現は、寺尾の進化の証といえよう。
格調高い人物表現に新境地を拓いた寺尾。被災を経験し、逞しくなった彼女が今後どのような活躍を見せるか、今から楽しみである。
新見美術館 館長 藤井 茂樹
岡山県天神山文化プラザ企画展 天プラ・セレクション Vol.97 寺尾佳子展 WATERMARK
[会期]2022年3月15日〜20日 [入場無料]
[時間]9時30分〜17時(最終日は16時まで)
[会場]岡山県天神山文化プラザ・第4展示室
寺尾 佳子 Yoshiko Terao
1977 岡山県総社市生まれ
2000 広島市立大学 芸術学部 美術学科 油絵専攻 卒業
2002 広島市立大学大学院 芸術学研究科 絵画専攻 修了
現在 総社市在住
展覧会
2007 個展(天満屋広島八丁堀店/広島)
2010 第44回レスポワール選抜企画展・個展(銀座スルガ台画廊/東京)
2010 個展(天満屋岡山店/岡山)
2014 「まなざし」植月英俊、赤枝真一、坂口裕子、寺尾佳子(art space テトラヘドロン/岡山)
2014 個展(新生堂/東京)
2015 絵画展 (art space テトラヘドロン/岡山)['16,'17,'18,'20]
2015 個展(天満屋岡山店/岡山)
2016 Four colors Exhibition (新生堂/東京)['17,'21]
2016 KITEN岡山県立総社南高等学校美術工芸系-有志OB展(岡山県天神山文化プラザ)
2016 井浦千砂と寺尾佳子新作展(アンクル岩根のギャラリー/岡山)
2018 RUBICON REBOOT(天満屋広島八丁堀店/広島、東邦アート/東京)
2018 古典と現代の狭間にて(広島市立大学芸術資料館5階「展示室」/広島)
2019 Exhibition18-19(総社吉備路文化館/岡山)
2020 レスポワールセレクション展(銀座スルガ台画廊/東京) ['21,'22]
2021 個展(天満屋岡山店/岡山)
2022 天プラ・セレクション vol.97 寺尾佳子 展「WATERMARK」(岡山県天神山文化プラザ)
出品一覧
タイトル|素材/技法|サイズ(cm)|制作年
境界|パネル、白亜地、銀箔、油絵具、テンペラ絵具|91.5×182.2点、91.5×135.5(3枚組)|2018
境界-芥子|パネル、白亜地、銀箔、油絵具、テンペラ絵具|91.5×182|2018
WATERMARK|パネル、白亜地、銀箔、金箔、油絵具、テンペラ絵具|91×182|2022
REBORN|パネル、白亜地、銀箔、油絵具、テンペラ絵具|100×171|2022
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本記事は、令和3年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクションVol.97 寺尾佳子展 記録集より抜粋しています。掲載内容は発行時点のものです。
発行:岡山県天神山文化プラザ
発行日:2022年5月30日
印刷:株式会社 三浦印刷所
編集:名合貴洋[岡山県天神山文化プラザ]
デザイン:鳥越眞生也[鳥越屋]
撮影:加賀雅俊[べあもん]
<記録集をご希望の方は、天神山文化プラザ文化情報センターにてご購入いただけます>
令和3年度 岡山県天神山プラザ企画展 天プラ・セレクション 記録集
※各展覧会の個別の小冊子(カラー8ページ/税込200円)
松村 晃泰 展|視線の行方|天プラ・セレクションVol.95
直原 清美 展|時を織り、その向こうに見えるもの|天プラ・セレクションVol.96
寺尾 佳子 展|WATERMARK|天プラ・セレクションVol.97
お問い合せ
〒700-0814 岡山市北区天神町8-54岡山県天神山文化プラザ
TEL 086-226-5005
FAX 086-226-5008
メール tenplaza@o-bunren.jp
受付時間 9:00~18:00
休館日 月曜日、年末年始(12月28日~1月4日)
「天プラ・セレクション」シリーズは、岡山県ゆかりの作家を選抜し個展形式で紹介する、天神山文化プラザの企画展シリーズです。 開催作家の選考は、推薦と公募の2部門から行います。